不機嫌でかつスイートなカラダ

《ボクの花はたいそう美しいけど、わがままで傲慢なんだ。花ときたら『やれ、お腹がすいた』だの、『風が吹くからついたてを立てろ』だの、『寒さをしのぐために、覆いをかけろだの』注文ばかり言うんだ》


ステージには卓巳君が一人で立っていて、その側には真っ赤なバラの花が一輪咲いている。


花の美しさに魅せられ、かいがいしく世話をする王子に対して、あくまでも横柄な態度を取る花。

王子はその花に嫌気がさして、とうとう小さな星から出て行く決意をする。

そして旅立ちの日……

花は初めて王子に本音を打ち明ける。


《あたくし愚かでしたわ。今までわがままばかり言ってごめんなさい……どうかおしあわせになって》


いつもと違ってしおらしい花の態度に王子は戸惑う。

けれどどこまでも意地っ張りな花は王子に言った。


《あたくしなら大丈夫。覆いなんてなくても平気ですわ。風に吹かれたって、虫が寄ってこようがかまいませんわ。だってあたくしは花なんですもの。大きな獣がやってきたら、このトゲで追っ払ってやります。さぁ……だから、もうアナタは、さっさと行っておしまいになって!》


それは花の精一杯の強がり。

泣き顔を見られたくなかったがための。


もちろんそんなことは本心ではない。

だけど小さな王子にはまだそのことが理解できなかった。



「こんな話だったんだ……」


あたしは思わずポツリと呟いた。


「面白いでしょ?」


隣でクスクスと和美さんが笑う。


「子供の頃は気づかなかったんだけど、大人になって読んでみると色んな発見があるのよ。王子と花の関係は、まるっきり男と女の関係そのもの……」


ほんとにその通りだな……。

意地を張ってばかりで素直になれない花が、なんだか自分と重なって見えた。

きっと好きだから、情けない自分の姿を晒したくなくて、素直になれないんだね……。