不機嫌でかつスイートなカラダ

その声の方へ視線を送ると、丸めた台本のようなもので肩を叩きながら男の子が近づいてきた。


「うん。見つけたよ。探すの大変だったんだから」


「あいつ、女に会いに行ったって聞いたけどマジかよ?」


その言葉に、一瞬チラリとあたしに視線を向ける和美さん。


「マジマジ。ほんと、信じらんない。本番直前に抜け出すなんて」


「だよな。ま、見つかって良かったよ。んじゃ、そろそろ始めっか。観客もお待ちかねだし」


男の子はくるりとあたし達に背を向けるとステージに向かった。


そしてマイクを手に観客席に向かってアナウンスを始める。


《え~。皆様お待たせいたしました。逃亡していた主役がやっと見つかりまして……》


その瞬間、客席からドッと笑い声が起こった。


《では只今より上演させていただきます》


その声を合図にするように、ホールの照明が落とされた。



「あの……」


あたしは隣にいる和美さんに小声で話しかける。


「和美さんって、姫川さんって言うんですか? ……この病院って、ひょっとして……」


「ああ。ここうちの病院なの。って言ってもおじいちゃんのものだけどね」


「そうなんですか……」


和美さんの名前は、【姫川和美】なんだ。

そして合コンで男の子達が話してた【姫】っていうのは、もしかしたら和美さんのあだ名?


和美さんはさらに説明を続けてくれた。


「このホールいいでしょ? 普段はカフェテリアとして利用してるんだけど、時々、こうやって催し物とかやるのよ」


なんとなくこの状況が読めてきてはいるけど……まだ腑に落ちないことがたくさんあるような気がして、あたしは質問を続けた。


「催し物って……。あの……卓巳君はいったい……これから何をするんですか?」