「まったく……。みんな、心配してたんだからね? 勝手に抜け出すなんて……全然自分の立場、自覚してないでしょ」

「ああ。悪かったよ」


あたしの背後で交わされる、和美さんと卓巳君の会話。

――みんなが心配してた?
――勝手に抜け出す?

卓巳君はやっぱりどこか具合が悪いのかな。


「あの……」


「じゃ、行きましょうか?」


和美さんはポンとあたしの肩を叩くと、自動ドアから中に入っていった。

結局、頭の中にある疑問を言葉にすることはできなかった。

なんとなくだけど、卓巳君も答えてはくれないような気がする。


あたしと卓巳君は和美さんの後を追うように病院の中に入っていった。


診療時間が過ぎているせいか、外来患者の姿はどこにも見あたらなかった。

もちろん、入院患者の姿も……。

時々すれ違うナースが和美さんにペコリと頭を下げ、卓巳君には意味深な視線を向ける。


いったいあたし達はどこへ連れて行かれるの?

卓巳君とこの病院は何の関係があるの?

いつまで経ってもあたしの不安は拭いきれない。



やがて、和美さんの足が止まった。


「もう、覚悟決めた?」


両手を組んで、挑発的に……

まるで卓巳君が困っているのを楽しんでいるかのような目を向ける和美さん。


「ああ」


卓巳君は大きくため息をつきながら、すぐ横のドアをうらめしそうに眺めている。


そこには【関係者以外 立ち入り禁止】と書かれたプレートが掛かっていた。


卓巳君は意を決したように、ドアを開けて中に入っていった。


「卓巳くっ……」


その後を追おうとしたあたしの腕を和美さんが掴んだ。



「アナタはこっち」