不機嫌でかつスイートなカラダ

その声に卓巳君が振り返る。

もうちょっとで彼に追いつける。

そう思った瞬間、アスファルトの段差にブーツのつま先が引っかかった。


「きゃ……」


あたしはそのまま卓巳君の胸の中に勢い良く飛び込んでしまった。


「うわっ」


そのはずみで、卓巳君の体も傾く。

あたし達はその場で崩れ落ちた。


あたしを庇ってしりもちをついてしまった卓巳君の首に、あたしは腕を絡ませてしがみつく。


「萌香チャン、大丈夫?」


あたしの背中に腕を回して、卓巳君はそっと抱きしめてくれた。

卓巳君の腕に包まれた瞬間、今までずっと我慢していたものがはじけてしまった。


「大丈夫……じゃないよ……もう無理だよ……」


「萌香……チャン……?」


もう、止められない。

涙はポロポロと零れ落ちる。


色んな感情がとめどなくあふれ出す。


愛しくて切なくて……

この気持ちをどんな言葉で表現すればいい?


どんなに考えても、たった一つの言葉しか思い浮かばないよ。


ずっと言いたかったのに、言えなかった言葉。


アナタに伝えたかった、たった二文字の言葉。


あたしは声を振り絞って口にする。





「好……き」