「だからさ……ホテル行こ?」


あたしの腕はさらに引っ張られた。


「やだ……」


あたしはその場から動きたくなくて、懸命に足を踏ん張る。


――誰でも良かったんじゃない。

誰でも良かったんじゃないんだ。


以前、沙耶から言われた言葉が頭に浮かぶ。


『萌香はさ……気づいてなかったのかもしれないけど。最初から好きだったんだよ、関口卓巳のこと』


沙耶の言った通りかもしれない。


卓巳君だから……。

卓巳君だからついて行ったの。

他の人じゃダメ……。


卓巳君じゃなきゃ嫌だよ……。


頭ではそう思っているのに、すでに抵抗する力は残っていなかった。

いくら踏ん張ろうとしても、もう足に力が入らない。

あたしの体はズルズルと彼に引き寄せられる。

それをOKのサインと取られたのだろうか。

一瞬ニヤリと口元を緩めると、あたしの腕を掴んだまま、彼は歩き始めた。


「クリスマスだからなぁ……。部屋空いてっかなぁ……」


あたしの様子なんてまるで気にすることもなく、はしゃいでいる彼。



目の前が霞む。

街を彩るイルミネーションの光が滲んで交じり合う。


「卓巳君……」


消え入りそうな声で呟いた瞬間、涙が零れた。

愛しい彼のその名前を口にしただけで、胸が締め付けられそうになる。

もう会うこともないのに……。



「あ~……部屋なかったらぁ、オレんち来る?」


そう言って、彼が振り返った瞬間……。


鼻をくすぐる甘い香りがしたと思ったら、あたしの体は背後から誰かに抱きしめられていた。




「ダメ。これ……オレの」