「矢吹くん…?」

「どうしたんだよ?深刻そうな顔して…ハァ、ハァ」

どの位、私の嘘の為に一生懸命走ってくれたんだろう?

俊也は息が切れていた。

「ハァ、ハァ、ハァ」

俊也はその場にしゃがみこみ、苦しそうに息をした。

おまけに、汗だくだった。

「本当にごめんなさい。」

「そんなに謝るなよ!俺がついてくって言ったんだから、気にすんなよ!」

俊也は優しく微笑みかけて言ってくれた。

その顔を見ると私はドキドキする。

「悪い、疲れた。ちょっと休ませて…」

「大丈夫?」

「あぁ。最近、運動してねーからな。久しぶりにこんなに走った」

俊也はまだ汗をかいていた。

「使う?」

私は、持っていたハンドタオルを出した。

良かった!今日、持ってきておいて…

「あぁ。ありがとう」

暫く、沈黙が続いた。

矢吹くん、何で私みたいな子にも優しく出来るんだろ?

ふと、疑問に思った。

そして

「矢吹くん、何で、矢吹くんは私みたいな子なんかにも優しいの?」

「どうしたんだよ?急に唐突だな?」

俊也はそう言って、笑っていた。

「何でなの?」

私は、不思議でたまらなかった。

それだけ、他人に優しく出来る余裕があるって事かな?

元々、優しいからかな?

俊也の顔はみるみるうちに真っ赤になった。

「どうしてだろうな?矢田は何でだと思う?」

「余裕があるから?」

「余裕?何の余裕だよ?俺に余裕なんて全くねーよ。」

「じゃあ、元々、優しいんだね!そうだよね、誰にでも優しいもんね、矢吹くんは!凄いよ!」

「それは、矢田だろ?俺は誰にでも優しい訳じゃねーよ。」

「そう?矢吹くんは優しいよ。でも、私は矢吹くんが思ってる様な人じゃないよ。そんな人なんかじゃない…」

本当に、私は矢吹くんが思ってる様な人じゃないよ…

いつもいつも、嫌な事ばかり考えてる。

心の中なんて、ぐちゃぐちゃ…

性格なんて、歪んでるし、曲がってる…

嫌な人間だよ…

私が優しい?

買い被り過ぎだよ…

「俺は調子が良いだけだけどな。矢田は優しくないの?そうか?そんなことないよ。何かあった?」

「何にもないよ。」

私は笑って答えた。

「矢田は自分に厳しいな!」

「…?」

「矢田、矢田は伊藤以来、好きな人いねーの?」