何かあったのかな…

そう思ったとき…

審査員室の扉から…雅志のお母さんの姿が。


「奈留ちゃんっ…」


「あ…こんにちはっ…」


「奈留ちゃん。
貴女の処置、素晴らしかったって聞いたわ。
貴女の気持ちに私も答えるために努力したけど…
あの獣医師さん…亡くなったわ。
痙攣を起こしながらも…最期まであの狂犬病になったビーグルのことを気にかけていたの。」


「そう…ですか…」


「奈留ちゃん、自分を責めないで。
貴女は、よくやったんだから。
泣いちゃって、大分顔悲惨よ?
詩名叔母さんが直してあげるから、あと2R、頑張るのよ。」


「詩…名…さん?」


「そう。
詩歌の詩に名前の名って書いて、"しいな"。
雅志の名前にも、その感じ使いたかったけど、字面が合わなくて敢えなくこの字にしたのよ。」


そう言いながら、涙で崩れたファンデーションやらアイラインやらを修復してくれた。

そんな中で…私の大好きな雅志の名前のことまで聞くとは思わなかったけど…


「誉めてたわよ?
雅志も…院長さんも…オーナーさんも。
貴女の勇気ある処置。」


「ホント…ですか?」


「じゃあ、雅志に伝えておいてください。
私が成長できたのも、雅志のおかげだって。」


第2Rまで、あと5分だ。


「わかったわ。
頑張って!
あ、それから、私のこと…もう、詩名叔母さんでいいからね?」


「頑張ります!!
…詩名叔母さん。」


私はそう言ってから、駆け足で会場に向かった。