辛かった。

安楽死をさせるのは…2回目。


あの…猫ちゃん以来。


安楽死させる前に…頭にのしかかる事実。


事情があるといえども…自らの手で…
命の灯を消さなければならないのだ。


今回のように…できる限りの治療を施しても回復の見込みがないときは…
やむを得ず行う。


そして必ず…自分に問いかけてしまう。


私の判断は正しかったのかな?

同じコンテストに参加している人に…

"犬を殺した獣医師"

って思われていないか不安で…


出場者控え室の前に座り込んで泣いてしまった。


…そのとき。


「大丈夫?」


名前は…霧生 礼夢(キリュウライム)さん。
私と同じように大学を卒業して間もなく獣医師となった人で、
動物虐待などがニュースで報道された際にはコメンテーターとしてTVにも出ている、有名獣医師だ。
この大会の審査員でもあるらしい。
今は心理学にも興味があって、獣医業の傍ら大学でそれを学んでいるらしい。」

「私は、さっきの件で貴女を責めたりしないわ。
むしろ、評価したいくらい。
このご時世…動物虐待もたまに騒がれる中で…
安楽死をさせることをためらう獣医師なんてたくさんいるわ。
でも、貴女は違う。
ためらいの中で、"安楽死"っていう言葉が持つプレッシャーに打ち勝って、
犬の気持ちを最優先させ…勇気ある行動をした。
素晴らしいわ。
貴女はきっと…いい獣医師になれる。
いい先輩に囲まれて…教育をされたのね。」


審査員の先生にそう言われた後、アナウンスがあり、休憩時間は30分だったが、あと20分延びるらしい。