夕方になって、2人でお祭りの会場に向かった。


毎年恒例だけど…

相変わらず…人…多いな。

気づけば、俺と奈留の間には、人の波が作られ始めていた。


グイッ…


咄嗟に奈留の手を強めに引いた。


「雅志っ…?」


戸惑う奈留をよそに、自分の胸に優しく収める。


「ったく…
俺の傍から離れんなよ?」

そう、一言だけ言うと…

ぎゅって…

抱きしめ返してくれた。


その後は、2人でほとんどの屋台を回った。


これも、毎年恒例の金魚すくい。


「あっ…
もう…また失敗。
まぁ…あまりやらないからね…」


失敗して落ち込む奈留の肩に手を置いて慰めてやる。
その傍ら、左手は器用に道具を操ってバケツの中に金魚を入れていく。


「すご…」


屋台のおじさんは…相変わらずだなって言って笑ってた。


余興の花火もしっかり楽しんで、婆ちゃんの家でスイカをパクつく。

もちろん、縁側に座って。

「昔からそうだったの。
この子…金魚捕ってくると命の灯が消えるまで実家のほうに帰らなかったね。」

「そうだよ。
世話したかったもん。
金魚。
世話の甲斐なく、いつもすぐにその灯火は消えたけどね…」


そんなことを言うと、奈留がいつになく笑ってた。


「雅志らしい。
天職だったんじゃない?
獣医師。」


確かに、ね…。


もう1日婆ちゃんの家でゆっくりして、
俺たちの職場がある地元に帰った。
奈留は、よほど婆ちゃんが気に入ったのか、帰りたくないって言ってたけど。

でもまさか…

有給休暇明けにとんでもないことを言われるなんて、予想もしていなかった。