地下鉄を待つ男の姿、きいちだ。彼はB型なのに妙に几帳面で同じ時刻の電車に乗らないと気が済まないらしく、基本的に同じ時間に同じ車両に乗車する。もちろん誰かに言われてやっているわけではない。
彼の独自のルールだろう。『継続は力なり』
と言う言葉を若干履き違えてる気もするが、継続することに意味があるらしく、そこに口を出すのは野暮なので、聞き流すことにした。彼は1年間同じ車両に乗り職場に通勤していたが、一つ悩みがあった。
それは刺激がない、ということ。幼い頃からテレビっ子である彼はテレビで起こり得る稀な場面に遭遇することに喜びを感じるみたいだ。
たとえるなら向かいに座っている妊婦さんが破水し、絶体絶命の状況、周りにいる人間が持ち得る知識を振り絞り赤ちゃんを取り上げる…等という生涯一度あるかないかの場面に遭遇することを望むという。もちろんハッピーエンドが理想だという。
彼には妄想癖があるみたいだが、それを口に出すと彼から話を聞けなくなりそうだったので止めた。