「こちらが勇者様のお部屋です。」


広めの部屋に案内された。

「あのさ、勇者様って止めてくれねぇかな?」

「ですが、」

「いや、勇者ってなんか清く正しい人ってイメージがあるんだよ。

実際、俺はそんなイメージ通りじゃないからやりずらくてな。」


「では、何と御呼びすれば…」

「普通に幸大って、」

「幸大様と御呼びすれば良いのですか?」

「様もちょっと…」

「では幸大さん、ですか?」

「まぁ、最初はその辺で良いか。」


「明日の出陣の際の御召し物はどのようなモノが良いですか?」

「ん〜。

今、俺が着てるシャツとジーパンみたいな奴はある?」

「ズボンはそのようなモノはありませんが、シャツはございます。」

「じゃあ、ズボンは何でも良いから動きやすいやつ。」

「かしこまりました。」

「それから、上から何か羽織れるのあると良いかな。」

「はい。

ご用意いたします。」


ドアがノックされる。

「御夕食です。」

「運んでください。」

給仕が食事を運ぶ。


「ここに書いてあるモノを明日の朝までに用意してください。

勇者様の出陣の際の御召し物です。」


「わかりました。」

給仕が部屋を出る。

幸大が一言も喋らず物事が淡々と進んだ。


「どうかされましたか?」

「いや、ドアがノックされてから俺の出番がないなって思って。」

「あ、すみません。

余計なことでしたか?」


「そうじゃなくて、なんか凄いなと思っただけ。」

「ほ、誉めても何も出ませんよ?」

めちゃめちゃ尻尾を振る。