「……どうしたんだ?」

近づいてみると、
少年は無言で、ただ、立ち尽くしている。


「恋人をね、食べちゃったんだって」

少年の視線の先には、1軒の家がある。
恐らくその中に彼の恋人が居るのだろう。

俺の視線に気づいたのか、
少年も口を開く。

「お腹が空いて……どうしても、
 我慢できなくて。そうしたら、
 自分を食べてって彼女が言ったんです」

ゾンビ化しても、人を食べずに数日すると
それは辛い飢餓感に襲われるらしい。

きっと、見ている方も辛い事だろう。
彼女の気持ちを理解するのは簡単だ。

それでも、未だ反ゾンビ派の多い町や、
住民が少なく訪れる者も少ない土地では、
食べずに七日を過ごし、
死んでいく者も多いと聞く。

きっとここもそんな状態だったんだろう。
少年の他に人気は、無い。



「それで、でも、少しだけって、
 ちょっとだけ、って、思って」

でも……と、そこで少年は言葉を切った。

すると、彼が少年を慰めるように言う。

「しょうがないよ。
 好きな人は特別、美味しく感じるんだ」

彼の台詞からするに、
歯止めがきかなくて少年は彼女を、
食べきってしまったのだろうか?


しかし、ここで疑問が出来る。
どうして彼は、少年とそんな話を?

考えていると、
俺の心が読めるかのように、彼が喋った。


「この子の家がここなんだけどね、
 自宅兼、スタンド。
 ガソリン、入れさせてくれるって。

 でもね、まだ中に彼女が居て、
 自分じゃ怖くて確かめれないから
 代わりに見てきてほしいんだってさ」

彼女の顔を。と。