コンコン。


控えめに窓ガラスが叩かれた。

音をたてたのは、若い女だった。


「すみません、
 女の子を見ませんでしたか?」

そう尋ねられた。


……もしかすると、少女はこの女から逃げていたのかもしれない。

そんな想像をしてみた。

しかし彼女の表情は、
迷子を心配する親のそれのようだ。


「私の、娘なんです。
 さっき襲われてしまって、それで……」

ああ、やっぱりそうなのか。

「女の子なら、
 さっき走っているのを見ましたよ」

そう答えるが、
女は聞こえにくかったようで、
申し訳ないが、と、もう1度尋ねてきた。

窓ガラス越しならしょうがない。


窓を開けて、
もう1度さっき見た事を伝える。


少女の母親は、よかったと微笑んだ。