そんな時の事だ。

「どこかに行ってみない?」

彼が言った。

「どこかって、どこだよ?」

「遠くへ」

何をいきなり、と思った。

本当はずっと前から考えていたと
そう知るのは、もっとずっと後の話だ。


「どこか遠くへ行こうよ。
 こうなった俺でも、
 当たり前に居られる場所に」

それは、この町なんじゃないのか?

お前が生まれ育って、
今もこうして当たり前に居る、この町。

景色も人も、町並みも。
彼は大好きだと言っていた。
それを、捨てると言うのだろうか。
……俺の為に?

彼だけならば、
この町でずっと、暮らしていけるだろう。

それに、

「……そんな所、あるか?」

そう返すと、彼はニコリと笑って

「探してみようよ。旅に出よう!」

そう、言った。