「前は、人もたくさん居て、
 この町も賑わってたんです。
 嘘みたいでしょう?

 ……でも、ある日ゾンビ化したんです。
 僕と、彼が。

 それで僕は自我を保っていたんですけど
 彼はもう、かけらも残っていなくて……
 僕が相手ならいいんですけど、
 人間相手にはすぐ、襲い掛かっちゃって

 町の人たちも、
 最初は大目に見てくれてたんです。
 近くの町は、もっと酷いし。って。
 でも、それが裏目に出てしまって……

 彼、みんな食べちゃったんです。
 町の人、全員。
 食べ盛りだから、
 抑えきれなかったみたいで……。

 あ、食べきっては無いですよ?
 さすがに。
 死んじゃった人は、2人で食べました。

 そしたら今度、
 町の外へ行こうとしたんです。
 でもそうしたら、キリがないでしょう?
 それに……」

そこで1度、言葉を切って、
1拍おいてから、少年は言った。

「それに、僕が、嫌だったんです。
 この町から出て、
 目を離してしまったら、
 彼はきっと、どこかへ行ってしまう。

 そんなの、耐えきれないんです。
 だから、それならいっそ
 彼とここで終わろうって、思うんです。

 ただ捕まえておくよりは、
 薬を飲ませた方が、楽でしょう?」


「……君は、飲まないんだろう?
 辛くは無いのか?」

俺がそう聞くと、
少年はふふっと笑った。

「自分が腐り落ちるのを感じるよりも、
 彼が居なくなることの方が、
 僕にはずっと痛いんです。

 それに、彼がそばにいるなら、
 耐えられるんです」