目線は食器。
顔は下に向けたまま、アタシは言葉を返す。


「声と、雰囲気?」

想太くんは首元でフッと笑って言った。


「てか、俺に隠し事しようとするなんて、100年早いんだよ」

顔は見えないけど、きっと勝ち誇った表情を浮かべてるに決まってる。
悔しいけど、「昨日はあんなに素直だったのに」ってさっきの言葉が頭を過ったからアタシは

「…ちょっとだけね。片平さんでしょ?」


片平さん、想太くんの担当の編集部の人。
ふわっとした華奢な大人な女の人。
想太くんと同い年で、可愛らしくて優しい雰囲気の女性だ。

ほっておけないような、そんな雰囲気。

何度もウチに原稿を取りに来てるから、アタシも何度も会った事があった。


「あぁ、そうだよ。」


想太くんは言う。
当たり前だろ、担当なんだから。
って口に出さなくても伝わってくる態度。

前に一度だけ、片平さんが帰った後想太くんがアタシにこう言った事があった。


『莉麻もあのくらい女らしかったらなー』