想太くんはそう言うと、自分の書斎に何かを取りに立った。
隣から想太くんが居なくなった一瞬。
その一瞬で、目に涙が溜まった。
余裕ぶってる口調とは裏腹に、どんどん溜まる涙。
想太くんが戻ってくるのは、思ったより早かった。
戻ってきた想太くんの手に握られていたのは、一冊の小説。
小説家になるきっかけとなった処女作だった。
連載された順番は知っていても、想太くんは自分の書いた小説をアタシに読ませたがらなかった。
「これ、麻子さんと莉麻の話。」
それを知らされた時。
今までアタシにこの本を読ませなかったのは、記憶が戻るのを防ぐためだったんだ、と直感した。
想太くんはいつも『思い出すのが辛いから無くしたんだろ?無理して思い出す事じゃない』って言ってた。
どこにぶつければいいのか、何とも言えないこの感情が、1度緩んだ涙腺から涙となって頬を伝った。
「なんで泣く?」
想太くんはアタシの頬から伝って落ちた涙を見て困った顔をした。

