彼に負けて数日がたった。
不思議で腑に落ちないのは、彼がまだ私に、なにも要求してこないこと。
あれからなにを要求されるのかすごく悶々してる……。
「はあぁあぁ~……」
「おっきなため息ね」
苦笑しながら摩美が言った。
「だって気になって気になって仕方ないんだもん」
今は摩美と琴のお稽古中。でもどのお稽古にも集中できないし、身に入らない……。
「忘れてるんじゃない?」
「絶対ない」
これだけは断言できる。私をおちょくるのが大好きで、困っているところを見るのが生き甲斐の奴なんだからっ!!
「ほんと腹立つ!!」
「だったら会いに行って、聞いてこれば?」
「そんなのやだ」
「あら、どうして?」
だって……
「負けたみたいで……」
「負けって、なにに?」
「わかんないけど、自分から会いに行くのは絶対いやなの!!」
「あ、そう。ならいつまでも待ってなさい」
さらりとそう言ってポロンポロンと琴を引き始めた。
やっぱりクールだな…
はぁ…とまたひとつため息をついて、私も稽古に集中した。