優しく頭を撫でられて、私は堪えていた涙が溢れ出し、子どものように泣きじゃくった。


でも、その胸にすがりつく事はできない。

そんな資格は私にはないんだから……。


涙を拭うと、精一杯の笑顔を霧様に向けて頭を下げる。


「霧様、今までありがとうございました……。
すごく、すごく楽しかったです……」


今までの霧様との時間を思い出しながら、大好きな大好きな霧様への感謝をこめて……。


「うん、僕も。
露が来てくれてすごく、すごく嬉しかった」


霧様もそう言ってくれたことが嬉しくて、その言葉を何度も何度も心の中で反芻し、刻み込む。

霧様との時間を忘れないために……。


「それじゃあ、失礼します……」


これ以上霧様と一緒にいると離れがたくなってしまうと思い、きびすを返すと……。


「露!」

「え……っ」


突然腕を引っ張られたかと思うと、私の体は霧様の胸の中に包み込まれていた。


「露……。露っ」


何度も、何度も名前を呼ばれて、強く強く抱きしめられる。


霧様……。

霧様――っ。


「……っ」


霧様にしがみつきそうになるのを必死で堪える代わりに自分の拳を握り締め、霧様の胸板を強く押し返した。