顧問と私たちと旅行部な時間

『経営戦略の成功と失敗』


 という本に手を伸ばした。
 そちらの本のほうが女子高生に向かないのは明らかだったが、今の琴子にはそんなことを考える余地はなかった。


 伸ばした手をさっと左へ5冊移動させ、目的の書籍を軽く引き抜き、ちらりと表紙を見た。


「!」


 心臓が跳ね上がるのを感じた。


 そこには、凛々しい帝釈天がいた。

 東寺の帝釈天は、琴子がこよなく愛する仏像だった。これは琴子に限ったことでなく、帝釈天を愛する女性ファンは数多くいるのだ。


 慌てて1度手に取った本を棚に戻し、スタスタとその場から離れた。


 顔を真っ赤にしながら胸に手を当て、鼓動が収まるのを待った。


 ――や、ヤバイです。想像以上にヤバイです。


 まるで好きな人に告白されたようなぐらい、琴子は激しく取り乱していた。


 ――帝釈天さまぁ。


 激しく買いたい衝動に駆られた。