顧問と私たちと旅行部な時間

「あぁ、赤沢日帰り温泉か。絶景だよな~」


 赤沢日帰り温泉。静岡県、東伊豆の国道沿いにある宿泊も可能な、比較的新しくできた温泉施設だ。

 露天風呂からの相模湾の眺望は素晴らしく、開放感にあふれる露天風呂は女性客に人気だ。


 そんな温泉を知っている祐樹に、那歩はつまらなそうに唇を尖らせた。


「なーんだ。知ってるんだ? 卒業旅行とかに伊豆とか行きたいよね~。ここからなら近いから、そんなにお金かからないと思うし。あっ、もちろん、女の子同士でよ」


 真剣に少年誌を見ている祐樹は、1人浮かれている綾海に迷惑そうに言ってやった。


「うっさいな。妄想は1人でやってくれ」


「もうっ」


 相手にしてくれない祐樹を軽く拳で小突いてやると、旅行雑誌の棚に1人戻った。


 伊豆の旅行雑誌を棚に戻し、北海道の旅行雑誌に手をかけた時、1人の少女に声をかけられた。


「ねぇ、小原綾海ちゃんよね」


「そうだけど……」


 少女は自分と同じ制服を着ていた。そのミディアムヘアーの少女――八坂那歩は、目を輝かせて綾海を見ていた。