顧問と私たちと旅行部な時間

 綾海はテニス経験があった。中学1年の時、テニスクラブに所属したこともあり、基礎は学んでいた。
 しかし、その1年の経験のみで、2年目以降は別のクラブに所属していた。2年のブランクを開けたが、ボールを打ち返す度に、その感覚を取り戻していた。


 ボールは何往復しただろうか。体力に自信があった筈の先輩も、苦しそうな表情を見せていた。それは当然、綾海もそうだった。


 体験しに来た1年相手に手を抜いていた先輩だったが、これ以上打ち返し続けていたら、打ち損じるのは目に見えていた。


 先輩にも1年に負けられない意地があった。


「そぉい!」


 気合いを入れて打ち返すと、ライトよりのバックコートにいた綾海に対し、先輩のリターンしたボールはレフトサイドラインよりに向かっていた。


 ――切れる。


 そう思いながらも、身体は反応したが、ラケットを持つ右手は反応しなかった。


「!」


 ボールはレフトサイドラインとベースラインの交わったところへ、鋭くたたき込まれた。


 意地を見せた先輩は、ふーっと大きく息を吐き、額に浮かんだ汗をリストバンドでぬぐった。