顧問と私たちと旅行部な時間

「帝釈天(たいしゃくてん)です」


「……そう。柴又にあるんだっけ?」


「京都の東寺(とうじ)帝釈天です! 柴又帝釈天とは全くの別物です!」


 背後にいる顧問を振り返り、琴子は間違いを力強く修正した。


 東寺。東寺真言宗総本山であり、教王護国寺(きょうおうごこくじ)の通称である。
 国宝の五重塔も有名なお寺だ。
 そこに講堂に大日如来を守るように、多くの仏像が配置され、その中に帝釈天半跏(はんか)像も鎮座されているのだ。

 その点、顧問が間違えた柴又帝釈天とは、東京の柴又区にある寺院の通称である。


「そんなことはどうでも良いの。あなたが描くべき物は仏像じゃなくて、あの胸像なの」


「ちょうどこの位置……」


 ボールペンの先を胸像を指した。その方を、顧問とのぞき込んでいた生徒たちが目で追った。


「写真で見た帝釈天と同じ位置なんです」


「……アリアスが、帝釈天に見えるのね」


 顧問は頭に響く痛みを右手で押さえた。


 琴子はスケッチブックを閉じると、ボールペンを筆箱にしまい、立ち上がった。