顧問と私たちと旅行部な時間

「写真も見ずに、ここまで描けるなんて見事だわ……」


 テストを行われた時間はものの15分程。都道府県の数点ではあるが、主要の歴史的価値の高い文化財が、見事にプリントに納められていたのだ。


「2組。姫島琴子」


 耕二が呼ぶその名前を聞き、那歩はプリントから目を離した。


「彼女は美術部希望らしいな」


「そ、そりゃそうね……」


「でも、良い人材だ」


 2人が欲しがる人材――姫島琴子。彼女は今、同じ3階の美術室にいた。この時間は美術部として利用されている。


 揃えた前髪が印象的な小柄の少女――琴子は先輩たちに混じって、アリアスの石膏像をブックエンドに立てかけたスケッチブックに描いていた。
 彼女もまた、部活見学に来た1人だった。


 胸像を中心に半円を描くように囲み、それぞれの位置でスケッチしている。見学のみの者は、それを壁際で眺めている。


 アリアスの胸像は、各学校でよくデッサンで利用されている彫刻だ。
 この石膏像の実物はローマのカピトリーノ美術館に所蔵されている。正確には「アリアドネー」という作品だが、作者は分かっていない。