迷彩結界器は、かなりデリケートな結界の為、開封度一以上では魔の力に影響されて光学的な迷彩を維持できない。

 狼藍は、第一段階詠唱を補助詠唱器に任せたまま、敵の基地との中継念波を遮断する為の広域封念結界器の起動を促した。

 森のあちこちに仕掛けていた結界器が、念波共鳴を起こして、起動する。

「来た」

 封念結界の起動と同時に、敵の魔憑攻殼が森林の広場に突入してきた。

「甲虫型だ、皇国の高機動と防御を両立させた奴だ。
最新型だぞ」

「こっちの攻殼はオンボロだからね。
けど、魔憑攻殼は攻殼の善し悪しじゃないよ」

「確かにそうだ。
魔憑攻殼は魔操士と」

「開封士の二人の力で決まる」

「さあて、いくよ」

「重音詠唱いくぞ。
破裂するなよ」

「任せな」

「詠唱開始」

 狼藍が詠唱を始める。

 その詠唱は、第二段階から始まり、少し遅れて第三段階詠唱が重なった。

 狼藍は、一人で二つの詠唱を唱え始めたのだった。

 魔が、一気に第一段階から第三段階に開封される。

「うくっ」

 凛は、急激に膨らんだ魔の力に身体を震わせた。

 悪寒と快感が、同時に背を這い上がる。

 いつもながら、狼藍の重音詠唱は、身体にきつい。

 こんな無茶な詠唱をするのは、狼藍くらいだ。

 そして、それに耐えられるのも凛くらいだった。

 それでも、発狂するぎりぎりで堪え、凛は魔憑攻殼の視覚で敵を見据えた。

 二腕二足の人型だが、丸みを帯びた甲虫を思わせる甲冑で、背中に羽虫のような羽を持っている。

 新型だけあって、詳しい性能は判らない。

 なら、最大の攻撃で打ち負かすだけだ。

 その思考に魔が応え、凛は、深紅に染まった右手の太刀を突進と共に撃ち込んだ。