「あ。先生、うち、その先のアパートです…」

私がそう言うと、先生はアパートの前で車を停め、後ろを振り返る。

「お家までついてこようか?」

「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」

「佐野君は?送って行こうか?」

「俺んち、ここから近いから、ここでいい」

佐野君は荷物を肩に担ぎ車を降りると、私も続いて降りる。
ウィンドウを開け、顔を覗かせる先生。

「じゃ、私行くけど、ホントに大丈夫?」

「はい。大丈夫です」

「そう?帰ったら早めに休んでね?」

言うと先生は軽く手を上げ車を出し、それを見送ると佐野君が、

「…はい。鞄、ちゃんと休めよ?またメールする」

鞄を差し出し、私に背を向けて歩き出す佐野君のTシャツを掴んでしまった。

「…あの、今日はありがとう、佐野君…よかったら、うちに、上がっていって?」

佐野君は肩越しに振り返る。

「…そんな事、気使わなくていいから。早く帰って休めよ」

「…気を使ってる訳じゃ…」

もう少し一緒に居たくて…

……なんて言えなくて。
Tシャツを掴む自分の手を離す。

「…きっ、昨日のカレーが沢山残ってるんだ…佐野君、お腹空いてない?」

「……カレー…食いたい…」

「…食べてくれると…助かるんだけど…」

チラリと佐野君の顔を見ると、佐野君は笑っていて、私から再び鞄を取ると、

「部屋、どこ?」

とアパートの敷地に足を踏み入れた。

「…あ。二階」

私は急いで佐野君の横を通り過ぎると、階段を上がって直ぐのドアに鍵を射し込んだ。

…やだ、嬉しい…顔が緩んじゃうよ…

ドアを開け中に入り靴を脱ぐ。

「…どうぞ?上がって?」

「…お邪魔…します」

狭い玄関で靴を脱ぎ部屋に上がる佐野君。

「…私の部屋あっちだから、部屋で待ってて…カレー、温めるから」

「…手伝うよ、温める位なら出来るし」

「いいから。ご飯も炊かないといけないし…」

「え?そうなの?」

「ご飯、冷凍が少ししかないし…佐野君、沢山食べるから…」

「あはは。ありがと、でも、わざわざ炊かなくてもいいから」

…違うの、佐野君。

少しでも長く一緒に居たいの…