保健室を出て、体育館に向かい廊下を歩いていると、美里が壁に背をつきこちらを見ていた。

無視して通り過ぎたら、追いかけてきて目の前に立つ。

「…何で無視するの?」

……はぁ。
めんどくさい…

「…急いでるから」

「そんなふうには見えないけど?」

ここでハッキリさせとくか?

「俺に構うな、お前とはもう終わり、じゃあね」

「待ってよ!」

すり抜けようとした俺の腕を美里は掴んで引き留めた。

「…何?」

自分でも恐ろしく不機嫌な声が出た。

「終わりって?別れるって事?」

「別れるも何も、俺、はじめからお前の事、好きでもなんでもないって言ったよね?それでもいいって言ったの美里だろ?」

「…そうだけど、でも、あたしは茜の事、好きだから…」

「俺はこれからもお前の事好きになる事ないし、お前は俺じゃなくても誰でもいいんだろ?」

「…何それ?酷いよ、茜…」

俺は携帯を取り出し、本日二度目の写メを美里に見せた。


「酷いのはどっち?他にも色々お前の噂聞いた事あるけど?」

すると美里は目を見開き、みるみるうちに青ざめていった。

「俺、そう言う女、嫌いだから、悪いけど手、離して?」

「…茜が悪いんだから」

…は?何で俺が悪い?
もうこいつ嫌…

「茜が冷たいから、あたし…」

「だったらこいつに優しくしてもらえば?」

携帯を閉じて美里から腕を振りほどき、再び歩き出す。

「…奥村さんには、優しくしてるみたいだね?茜?」

…佑樹と同じような事言いやがる。
もう相手すんのもめんどくせ。

「…奥村さんの事なら、好きになっても無駄だよ…」

ピタリと足が止まった。

「…あの人…佑樹の言いなりだから…」

「…は?何それ?」

思わず聞き返す俺。

「…別に…その通りの意味だよ?」

曖昧な事言いやがる。
聞くのもしゃくにさわるが、奏の事が気がかりだ。

「…教えろよ」

「…やっぱり…茜、奥村さんの事好きなんだ?さっきも血相変えて抱き抱えて…」

「それがどうした?お前に関係無いだろ?」

「…そうだね、もう関係ないね?」


そう言うと美里はクルリと背を向け、走り去った。