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「かなちゃん!」

「奏っ!」

俺は急いで奏に駆け寄り、奏の友達(確か美樹)の膝に倒れ込んでいる奏の身体を起こした。

「どこぶつけたの?」

奏の肩を抱き、起き上がらせて、美樹に聞いた。

「…ボールが飛んできて…後ろの壁に頭をぶつけたみたい…」

「…そうか…とりあえず保健室運ぶから」

奏の背中と足に手を回し、抱えて立ち上がると、体育館を出た。

「あ、あたしも一緒に行く!」

後ろから慌てて美樹が追い掛けてくる。

廊下を足早に歩き保健室へと向かう。

手を使うのももどかしく、足で保健室の扉を開け中に入る。

「せんせー?」

声をかけるが誰も居ない様子。

何やってんだよここの養護教員は、いつもいつも留守しやがって。

とりあえず奥のベッドに奏を運び、後頭部ぶつけたみたいって言ってたから、横向きに寝かせてやる。

「…奏?」

頬を軽く叩き声をかけてみる、微かにピクリと反応した。

よかった。
多分軽い脳震盪だろう。

奏の頬にかかる髪を後ろに流してやる。
指の隙間から、奏の艶のある黒髪がサラサラとこぼれ落ちる。

そう言えば髪に触るの初めてじゃん…

…はは。

こんな状況でなんだけど、ラッキー。

すまん、奏…

「はぁ…佐野君…速すぎ…」

美樹が扉に手をかけ、肩で息をしていた。

「…あのさ?先生居ないみたい、多分職員室、美樹ちゃん悪いけど、呼んできてもらえる?」

「…ほぇ?先生居ないの?」

「うん。俺、氷枕とか用意するから…お願い」

美樹はベッド近付いてきて、奏の顔を覗き込んだ。

「…かなちゃん、大丈夫?」

「うん。多分軽い脳震盪、あと少し顔色も悪いみたい…寝不足かな?…」

手が自然と奏の前髪をかきあげた。

やっぱり顔色悪いな…
奏痩せてるし…貧血かもしれない。

練習なんて止めとけばよかった。

「…じゃ…あたし、先生呼んでくるね?それまでよろしくね?佐野君」

「うん。わかった」

美樹が出ていくと、勝手知ったる保健室。

冷凍庫から氷枕を出し、タオルで繰るんで奏の頭を持ち上げ、頭にあててやっていると、


「人の彼女に馴れ馴れしく触らないでくれる?」