「うん。バスケになった、拓也も一緒」


美樹ちゃんは笑うと、拓也君に手を振っていた。


…いいなあ、あんなに堂々と…お互いに好きって…言い合ってるみたい…

羨ましい…


「なんか人増えて来たね?練習どころじゃ無くなってきてるかも?あっち行こ?かなちゃん」


いつの間にか沢田さんも隅に異動して壁に寄りかかり、座っていた。


私と美樹ちゃんも、そちらに異動して並んで座る。


「…やっぱり佐野君…凄い上手…」


沢田さんがそう呟くと、私と美樹ちゃんも佐野君の方に顔を向けた。


佐野君は真っ赤なタオルを頭に巻いていて、いつもは長めの前髪で瞳が隠れていたりするのだけれども、今の佐野君はくっきりした眉と、切れ長の琥珀色の瞳が露になっていて、回りの女の子達がチラチラと佐野君を見ながら指差ししたりていた。


佐野君はカッコいいもんね…

だから、今までだって彼女とかも沢山居たはず…

チクリ、と胸が痛む。

浮気でもいいとか思っておいて…

…私ったら。


「ホントだ…佐野君凄い、拓也バスケ部だけど、拓也よりウマイわ、あはは」


そうでしょ?
佐野君は凄いんだよ。
二回も全国大会出場してるんだから。
ダンクシュートだって出来るんだから。


私は心の中で思いきり佐野君自慢をしていた。


……はぁ…


我ながら情けなくなってきて、ため息をついてうつ向いた。


佐野君が好きです。


それが言えたらどんなに嬉しいだろう?

でも言えたところで佐野君が、私の事を好きになってくれるのかどうかもわからないのに…

そもそもそんな事を考えるだけ無駄なんだけど…


私は佐野君と時々秘密の会話したり、目が合えば、微笑み返してもらったり…


それだけで心の中が暖かくなる。


佐野君と出逢えてホントによかった。



「…危ないっ!」


−バシッ!


突然頭が激しく揺さぶられ、後頭部に衝撃が走る。


脳が揺さぶられるような感覚になって目の前が真っ暗に。


「…奏っ!!」


遠くから佐野君の声が聞こえたような気がしたんだけど、そのまま暗闇に飲み込まれた。