5月に入り、もうすぐ夏を迎えようとしている空の色は、青く澄んでいて。

その前に、ジメジメとした梅雨がやって来るのなんかを忘れてしまっているのではないかと思うほど、夏色になっていた。

週明けの帰りのロングホームルーム中。

隣の席に目をやると、佐野君は腕を枕に私の方に顔を向けて、居眠りしていて。
窓から微かに吹いてくる風が、佐野君の少し長めの前髪をフワリとなびかせた。

佐野君の寝顔が露になって、私はその寝顔に心の中で密かにシャッターを押す。

眠る佐野君の少しあどけない顔を、胸の奥に刻み付けた。

「…では今から球技大会の組分けのくじ引きをします、前の方から引きに来て下さい」

黒板の前に学級委員二人が立ち、来週行われる球技大会の組分けを行っていた。

私達の学校には体育祭は無く、毎年5月に全学年対抗の球技大会が行われる。

体育祭が無い代わりに文化祭にかなりの力を入れているのだけれども、私達の通う高校は進学校の為か、体育の授業も選択授業で、普段あまり馴染みの無い球技と言う事もあって、それなりに盛り上がる。
その理由は、全学年対抗戦でチーム優勝するとそのクラスは、文化祭の時に色々な特典がつくらしい。

食券の無料配布とか、体育館の使用権利の優先とか。

球技の内容は、バスケとバレーとソフトボール。
バレーは学校近くにある区立体育館を借りて行われ、ソフトボールは男女混合、全学年で五チームが優勝すると言う仕組みになっている。

話し合いでチーム決めがまとまらず、くじ引きをする事になったみたいだった。

そろそろ佐野君の番だけど…

私は眠る佐野君の肩を小さく揺すった。

「…佐野君、起きて」

「…う〜」

…起きてくれない。

「…佐野君」

すると佐野君は急に顔を上げて立ち上がると、

「…タケ!何度言ったらわかるっ!!腕じゃなく膝を使うんだ!膝を!」

「うえぇっ!?」

と変な声を出した学級委員の竹田君。

静まりかえる教室。

「…あれ?…ここどこ?…」

…佐野君…夢見てたんだね…

「…あ…夢か…わり」

何事も無かったかのように佐野君は座った。

「…あの…佐野君?今…どうやって膝使うの?」

竹田君がそう呟いた。