二人が帰ってしまうと、病室はシンと静まり返り、急に寂しさが私の心に広がった。


もっと面会時間が長かったらいいのに……


以前はひとりでも平気だった。
むしろひとりの時間の方が落ち着いて本を読んだり勉強したり、ひとりなりにも有意義な時間を過ごせていたと思う。


それなのに今は心にぽっかりと穴が空いて、その隙間から言いようのない寂しさが入り込んで来るみたい。


そんな時、決まって考えてしまうのは……


−−コンコン…


病室の扉をノックする音が聞こえてきて。


「はい」


そこから顔を覗かせたのは。


「こんばんは。奏ちゃん」

「小谷先生」

「入ってもいい?」

「勿論。どうぞ?」


お父さん達が帰ってひとりになってしまった私は、小谷先生の訪問が素直に嬉しかった。


「小谷先生、今夜は当直ですか?」

「うん。夜間外来の方にこれから行くんだ」


小谷先生は病室に入って来ると、私のベッド横にパイプ椅子を開いて、背もたれを前にし、足を開いて挟み込むようにそこに腰をおろした。


「まだ行かなくて大丈夫なんですか?」

「まだ時間あるからさ、少しなら大丈夫」


小谷先生は背もたれに肘を乗せ、頬杖をついてニッコリと微笑む。


そうやって笑う小谷先生は医師とは思えない程にあどけなくて、まだ学生みたいに見えてしまう。


「遅れたらまた岡崎先生に叱られますよ?」

「あいつは今日昼勤だったから、もう帰宅してる筈さ、うるさいのが居なくてせーせーするよ、あはは」

「そんな事言って....明日岡崎先生に言いつけますよ?」

「あー!それはやめて、お願い」


顔の前に両手を合わせて、私を拝む小谷先生につい笑ってしまった。


「もう笑っても痛くないみたいだね」

「はい。おかげさまで、もう痛くないです」

「そか、よかった」


こんな時間にナースコールもしていないのに、まだ勤務中の小谷先生が訪ねてきた理由が知りたくて。


「小谷先生、私に何か用事ですか?」

「うん。奏ちゃん、もう包帯も取れたみたいだし、この前約束してたでしょ?催眠治療の事…」