「じゃあ、話進めてもいいかな?」

「勿論だよ」


暫くして成美さんもお菓子や果物をお見舞いに病室に来てくれて、毎回沢山の食べ物を持って来てくれるのだけど、それは殆どマサキ君のお腹の中に収まってしまうのを知らない成美さんは、全部私が食べてると思ってるのかな。


それから三人で壁紙やカーテンの色とか、新しく購入する予定の家電の話なんかをして過ごしていたら、今日の面会時間も終わりに近付いてきた。


まりあちゃんが居たベッドはまだ空いたままで、昼間はマサキ君や他の患者さん達とお話したりで楽しく過ごせるのだけれど、それでもふと思考が途切れた時や、この病室にひとりきりで夜を過ごしていると、どうしても考え込んでしまう事が……


「奏。奏は将来何かやりたい事とか考えてるか?」

「将来……?」

「うん。なりたい職業とか夢とか」


職業……、夢?


「うーん…今の所、とくにないかな」

「そうか、もし何かやりたい事が見つかったら、なんでもやりたいようにすればいいよ。お父さんはその為になら何だって協力するから、さっきも言ったけど、奏には色々と不便な思いをさせてしまっていたから、これからはそんな事はさせたくないからね。奏は必ず幸せになってほしい。だから遠慮せずに何でも、どんな我儘でも言ってほしい」

「そうよ、奏ちゃん、奏ちゃんは可愛いし、真面目だし成績だってとびきりいいんだもの。何にだってなれるわ。あっ、そうだ、きっとアイドルにだってなれちゃうわよ」


アイドル………
それは無理かも…


「おいおい。アイドルはちょっと…」

「あら。奏ちゃんはそこら辺のアイドルなんかよりもずっと可愛いんだもの、無理な話じゃないわよ」

「アイドルって水着になったりするんだろ?ダメだダメだ。奏、アイドルだけにはなるなよ」

「健吾さん今なんでも協力するって言ったじゃない。ね?奏ちゃん」

「……それとこれとは…」

「健吾さん。自分が言った事には責任とらなくちゃ」

「う…わかったよ。奏、アイドルになってもいいぞ」

「ぷっ、あはははっ」

「奏?」
「奏ちゃん?」

アイドルになるなんて一言も言ってないのに、二人のやり取りがおかしくて、吹き出してしまった。


お父さん。ありがとう。
私、今のままで十分に幸せだよ。