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「……で、どうだろう?奏」

「え?……なあに?お父さん」

「どうした?怪我が痛むのか?」

「ううん、痛くないよ。ごめんなさい、ぼんやりしてただけ」

「ならいいけど…奏はなんでも直ぐに我慢するから…」


お父さんはそう言って、私の顔を心配気に覗き込んで、困ったように笑ってみせた。


「ホントに大丈夫だよ。それに私、我慢なんかしてないよ」

「いや、お父さん、奏には今まで色々と迷惑かけたり、不自由な思いさせたりして、我慢させてしまっていた筈だ。すまないと思ってる」

「急になに言い出すの?おかしなお父さん」


不意に謝り出すお父さんに私は話をもとに戻そうと、お父さんが持ってきたタブレットの中の写真を拡大してみせた。


「ここいいよ、お父さん。キッチンも広いし角部屋だし、日当たりもよさそう」


最近ヨコタが手掛けたマンションにまだ空きがあるらしく、そのマンションは3LDK、立地条件も良く、直ぐにでも埋まってしまいそうな様子で、実は以前から引っ越しを考えていたお父さんは、この際思い切って新しくこのマンションを購入する事に。


その為私にその間取りとか、周りの環境なんかを写真付きで説明してくれていたのだ。


「気に入ったか?」

「うん。リビングも広々としていて、素敵だよ」

「そうか。よかった、出来れば奏が入院してる間に引っ越しを済まそうと思ってるんだけど、奏も退院したら直ぐに学校も始まるし、どうだろう?」

「荷作りはどうするの?」

「引っ越し業者が全部やってくれるそうだよ、それに成美さんも手伝ってくれる、他人に荷作りしてもらうのは嫌かい?」

「そんな事ないよ、それに成美さんは他人じゃないでしょ?お父さん」

「奏……」

「お父さん。幸せになってね」


今まで大変な時期もあったけど、お父さんはまたお家が買える位まで頑張ったんだもん、だから幸せになってほしいって心からそう思う。