「キョンよりお前の方が確率的にも厳しい世界だろ?頑張れよ。茜」


笑ってそう言ってくれるマスター。


確かに。
弁護士になるのとアメリカでプロになるのでは、天と地程の差があるのかも知れない。


だけど。


ヨースケやアキラに出会って、僅かでもその可能性を秘めているかも知れないのに、やろうとしないのは、二人に対して物凄く、やってはいけない事のように感じられて。


跳べる足があるのに、跳ぼうとしないなんて。


続いていく筈の未来を、途中で諦めなくちゃならない時が来るかも知れないなんて……


俺には跳べる足があるじゃないか。


夢を現実にする事が出来るかも知れないだけの時間もあるじゃないか。


だから、そんな二人に恥じないように、自分がどこまで通用するかわからないけれど、やらなくちゃならないと思ったんだ。


いや。


俺自身が、ずっと心の奥底で燻っていた気持ちに気付かせてくれたんだ。


俺にはそれに惜しまず力を貸してくれる家族がある。


期待してくれている先生や後輩達が居る。


だから………


「うん。ありがと、マスター」

「今のうちにサイン貰っとくかな?将来プレミアつきそうだ」

「そんなに上手くはいかないよ、成功するかもわからないし」

「いや、お前は大物になるよ。そんな気がする」

「あんま期待しないで」

「俺の感は当たるんだ、宝くじも万馬券も当たった事は無いけどな。事人に関しては何故だか不思議と当たる」

「はは……、だといいけどね」




だから、俺ひとりの身勝手な感情で、それを諦めてしまうような事は出来ない。



奏を傷付けてまでも、俺はそれに向かって行く決心をしたんだ。