「しかし困ったな……」


ビールを注いでマスターに手渡すと、マスターが独り言のように呟いて。


「何が?」

「あ…、ああ、キョンも今月一杯で辞めちまうからさ、早急に人手あたんないと、カケルにでも頼むかな」

「え?キョンちゃん辞めちゃうの?」


寝耳に水だった。


「弁護士事務所で、行政書士として働く事になったんだ」

「行政…書士?」

「行政書士、知らないか?行政書士法に基づいた、官公署に提出する書類とか、権利義務なんかの事実証明に関する書類の作成の代理する国家資格の事だよ」

「なんか……難しい…」

「あはは、簡単に言うと、少し違うが弁護士の二三歩手前みたいなもんかな?」

「キョンちゃんはその資格を持ってんの?」

「ああ、去年の国家試験に受かったからな」


……知らなかった。


そんな難しそうな試験に受かっていたなんて、そんな素振りすら全然見せなかったのに、いつの間に……


「キョンちゃん……凄いね」

「アイツはああ見えて、真面目なヤツだからな、アスカの為にもバイトで生計を立てるより、きちんとした所で働いて、そこで勉強させてもらいながら、弁護士を目指すんだとさ」


自分の為じゃなくて、アスカの為。


今まで俺が考えていた、いつものチャラけた恭介とは違い、将来を見据えて、好きな女の為に、自身の生活さえも改善しようとする恭介。


そんな恭介は、人として、男としても素直に尊敬出来る。


「キョンちゃんは、立派な弁護士になれるよ、きっと…」

「ああ。そうだな」