佐野君の腕を掴んでうつ向いたまま、二人きりの静かな病室の中、私の心臓の音だけが身体から漏れて聞こえてくるんじゃないかと思う程に、ドクドクと脈打っていた。


……何か、言わなきゃ…
佐野君が行ってしまう…


……でも、何を言ったらいいの?
私はどうして佐野君を引き留めたりしたの?


「……離して」

「嫌…」


普段なら絶対言わないような言葉までもが出てしまって、私の胸の痛みが益々強くなる。


「離して、奏…」

「…嫌だ」


再び沈黙が流れて、私は目頭が次第に熱くなってくる。


佐野君と……、離れたくない。


それだけの感情に今たどり着いた。


そうだ。


私、佐野君と離れたくないんだ……


自分でも意味がわからないこの感情は、今までに経験したことがなくて、それを佐野君に伝えようと色々と思考を巡らせるけど、上手く言葉に出来なくて、ただ時間が流れていくばかりで、もどかしくて、さらにきつく佐野君の腕をギュッと掴んだ。


「…そんなに、帰したくないの?」


佐野君がぽつりとそう言って。


「うん…」

「じゃあさ?」


私の顔を下から覗きこんだ。


「最後に一回だけヤらしてくんない?」

「え……?」


佐野君の言った事が直ぐには理解出来なかった。


「丁度ベッドもあるしさ?」


いきなり何を言い出すの?
佐野君……


「ね?ヤらせてよ」


佐野君は私に向かってにっこりと笑ってみせた。