「……俺の事…、思い出して、どうするの?」
どうする?
それは………
「佐野君の事……、思い出せないまま、このまま、お別れなんか、したくないよ…」
私は正直に思った事を口にした。
「思い出した所で、俺は居なくなる………
だったら……、そのままでもいいと思わない?」
「え…?」
「奏とは同じクラスになって、席が隣で……
たまに勉強教えてもらってだけだよ。
そんだけ……だから、別に思い出さなくても、今と大して変わらないよ」
変わらない?
そんな事、思い出してみないとわからないけど、バスケットの事とか、留学の事とか、佐野君は私に色々話してくれたんだよね?
雷の夜。ひとりで怯えていた私を心配して来てくれる程、佐野君は私の事を知っていて、それなのに。
何でそんな事言うの?
佐野君はアメリカに行っても、私の事を忘れないって言ってくれてるのに。
抜け落ちた記憶しか残らないまま、佐野君とここでさよならなんてしたくない。
「俺の事なんか……思い出さなくてもいいよ」
ズキン。
佐野君のその一言でチクチクとした胸の痛みは、一際大きく痛みを伴う。
思わず片手で胸を押さえ、掌越しにもその鼓動が伝わってくる。
「じゃあね。奏…」
「待って!」
今にも行ってしまいそうな佐野君の腕を掴み、私は咄嗟に引き留めた。
「何?」
「あの……」
引き留めてはみたものの、何を言ったらいいのかわからず、私は言葉を詰まらせた。

