「奏の事……、忘れないよ…」
そう言って佐野君は、うつ向く私の頭をくしゃりとひとつ撫でてくれた。
忘れない?
私の知らない私を、そのまま連れて行ってしまうの?
私しか知らない佐野君は一体どうすればいいの?
「……私も…、忘れたくない…」
呟き、私は顔を上げた。
「え…?」
「……私っ、催眠療法受けるの。それでね?もしかしたら記憶が戻るかも知れない、そしたら…」
「………そしたら?」
「そしたら…」
そしたら……
どうしたいの?私……
『奥村さーん…』
不意に天井のスピーカーから私の名前が呼ばれて、驚き、私は慌てて。
「はっ…、はいっ!」
『付け替えしますので、処置室にどうぞ』
「…あ、はい…わかり、ました」
……付け替え、そう言えば今日はまだたったな。
「行ってきなよ」
「……うん」
佐野君は私の腕を掴んで立ち上がらせてくれて、私は佐野君に。
「多分今日で、包帯が取れるの」
「うん」
「包帯が取れたら、催眠療法試してもらう事になってて…」
「……うん」
「そしたら、記憶が戻るかも…」
「…………」
「佐野君の事……、思い出せるかも知れない」
佐野君の事を思い出せないまま、佐野君がアメリカへ行ってしまうなんて。
そんなの……、嫌だ…

