それ以上の言葉が続かなくて、私は佐野君から目を反らし、うつ向く。


そんな私の頭の上から佐野君の声がして。


「今日は、それを言いに来たんだ。もう……、会えないだろうし」


佐野君とは、もう、会えない…?


さっきまでドクドクと忙しなくうるさい程だった心臓が、今度は脈打つ度、そこに痛みが走る。


……何で?


何でこんなにも動揺しているのか、自分でもわからない。


「今まで色々……、ありがと。奏…」


……今まで、色々…


その今までの日々を私は覚えていない……


「……どうして、留学するの?」

「バスケ…」


バスケット?


………あ。


洋介さんが言っていたのはこの事だったんだ。


佐野君には大切なものがあって、それを選ぶとバスケットを続ける事が出来ないって。


「うん。バスケ、俺、アメリカで、プロになる」

「プロに?」

「NBAプロバスケリーグ、俺の、ずっと前からの夢だよ」


NBAプロバスケットボールリーグ……


バスケットを知らない私にだって、それがどんなに凄い事だかわかる……


佐野君は海を渡って、その夢を叶える決心をしたんだ。


確かに、大切なものと引き換えにしても、それは叶える価値のあるもの。


洋介さんが言ってた。
佐野君は世界的なプレイヤーになれるって。


私なんかには、あまりにもスケールが大きすぎる話で、佐野君にそんなにまでバスケットの才能があるなんて、洋介さんから聞いてはいたけど、正直、そこまで大きな話だとは思ってもいなかった。


私はそれを知っていた。


知っていて……
何もかも忘れてしまってるんだ……