佐野君は摘まんだピアスを器用にホールへと差し込んで、それを左耳に納めると。


「あ。キャッチが無いじゃん…」

「あっ、あのね、シリコンだけど、取り合えずよかったらこれ使って」


こうなる事を予測していた私は、成美さんに頼んでキャッチだけ買ってきてもらっていた。


よかった。
頼んでおいて。


「ありがと」


左耳に三つのピアスを付けた佐野君。


ふふふ。やっぱりよく似合ってる。


「あ。何か飲む?」


二人だけの空間に沈黙が走ると、私は落ち着かなくて、冷蔵庫からペットボトルを数本取り出した。


「ぷ。そんなに飲めないよ」

「え?あっ、どれがいいか選んでもらおうかと思って、ポカリでいいかな?」


他の二本を冷蔵庫にしまおうとしたら、手が滑ってしまって、二本とも床に転がってしまった。


「あっ」


慌ててベットの下を覗きこんでそれを拾おうとしたら、佐野君の長い腕が伸びてきて、私より先に二本とも掴んでそれを拾ってくれた。


「はい」

「あ……、ありがと」


お互いに床に座り込み、同じ目線になってしまった私と佐野君。


私の心臓が、大きくドクンとひとつ脈打つと、それから小刻みにドクドクと鳴り出した。


……何これ?
さっきから私、どうしちゃったんだろ?


佐野君は何も言わないで、そのままの格好で私を真っ直ぐに見つめていて。


私はそんな佐野君の視線に射止められたみたいに、目を反らす事が出来なかった。


「……俺…」

「はっ、はいっ」


私をその瞳に捕らえたまま、佐野君は。


「………アメリカに行くんだ」


え……?