その後も佐野君とは何も話さないまま、病室まで戻ってきた。
病室の引き戸に手を掛け中に入ると、まりあちゃんのベッドは既に綺麗に片付けられていて、もうこの病室にこれからはひとりきりなんだと思うと、途端に寂しさが込み上げてきた。
あんなにちっちゃい女の子一人が居なくなっただけなのに、それだけで決して広くはないこの病室が、物凄く広く感じてしまう。
「……寂しくなっちゃったな…」
無意識に出てしまった呟きは、静かになった病室でもはっきりと聞き取れる程で、私はそれを誤魔化すように明るい声を出して、扉の入り口に佇む佐野君を振り返る。
「あ、座って佐野君?」
私が隅に置いてあるパイプ椅子を出そうとそれに手を掛けると、佐野君が横からそれを阻止するように、横から椅子を取り上げ、ベッド脇にそれを広げて腰を下ろした。
私は佐野君のピアスをしまってあるピルケースを出して、それを摘まんで掌に乗せて、佐野君に差し出した。
「はい、これ。佐野君ので間違いないよね?」
佐野君の左耳に付いているものと同じピアスだけれど、一応確認の為にそう聞くと、佐野君はピアスには触れずに私の手首を掴んだ。
「………これ」
それは私の手首のブレスレットを見て言っているものだとわかって、私は。
「あ…、これね?私がよく身に付けてたものらしいんだけど、でも私、見覚えがなくて…、もしかしたら、何か思い出せるかなって思って、いつも身に付けてるの…」
摘まれた手首のブレスレットを佐野君は親指で軽く撫でる。
そんな佐野君の腕を見てみると、佐野君の手首にも少しゴツめだけど、クロスのチャームが付いたブレスレット。
「……佐野君のブレスレット、これと少し似てるね?」
「そうだね…」
そう言って佐野君は手を離すと、私の掌からピアスを摘まんで。
「拾ってくれて、ありがと」

