………え?
佐野君?


まりあちゃんが向かっている先には佐野君の姿が。


久し振りに見る佐野君の姿に、何故だか微かに鼓動が早くなる。


佐野君……来てくれた。


「茜おにいちゃん!まりあ、今から退院するんだよ!」


まりあちゃんが佐野君の前まで来ると、佐野君はかがんでまりあちゃんに視線を合わせた。


「そうか。よかったな。まりあちゃん」

「うん!」

「まりあー、もう行かないと!」


まりあちゃんのママが言うと、佐野君はまりあちゃんを立て抱きに抱えて、此方に向かって歩いてくる。


徐々に近付いてくる佐野君に、私の鼓動は益々早くなる。


「ママ!茜おにいちゃんだよ!」

「あなたが茜君?まりあから聞いてるわ。まりあがお世話になって、ありがとう。今日で無事に退院出来ました」

「いえ、世話なんか…、退院、おめでとうございます」


久し振りに間近で聞く佐野君の声に、私は早まる鼓動を押さえるように胸に手を当てた。


後部座席のドアを開け、まりあちゃんをそこに乗せる佐野君。


「まりあちゃん。元気でね」

「うん。茜おにいちゃんもね!」

「まりあちゃん。遊びに行くからね」

「約束だよ!かなでおねえちゃん」

「ちゃんと夏休みの宿題やれよ?まりあ」

「うん!マサキくんが教えてくれたから、あとは読書感想文だけだよ!」


私達とお別れをしたまりあちゃんを乗せた車は、ゆっくりと走り出す。


「バイバーイ!」


ウインドウから顔を出し、大きく手を降るまりあちゃんに、私達も車が見えなくなるまで手を降ってそれを見送った。