「奏に相応しいのは俺だ。お前じゃない」
佑樹はキャリーバッグに手を掛けるとドアを開け、俺は何も言い返せないまま、強く唇を噛んだ。
……もう…
奏との日々を取り戻せないのか?
バスケを選んだ俺にはその資格もないのか…
……そう、だよな…
こんなに自分勝手で優柔不断で、周りにも散々甘やかされて、どうしようもなくガキな俺にはそんな資格なんて……
はじめから……
無かったのかも知れない…
「……二度と…奏を、泣かせるような事…するな…」
胸がつかえたようになってしまって、上手く言葉が出てこない。
でも、何とか絞り出すように俺はそう言った。
「はじめからお前が現れなかったら、奏は泣く事なんかなかったんじゃないのか?」
…………確かに、そうだ…
奏と同じクラスになって、しかも隣の席で。
はじめはただ切っ掛けがほしくて、悪戯心で送ったメールから始まった。
最初は素っ気ない態度の奏だったけど、日を追うごとにそれは徐々に薄れていって、いつの間にか、本当の笑顔を見せてくれるようになって、初めて出逢った、あの時みたいに、眩しい位の笑顔を見せてくれる奏に益々夢中になった。
奏が欲しくて。
全てが欲しくて。
ただ一緒に居るだけで、その全てが手に入ると思ってた。
……だけど。
俺と一緒に居ることで、奏が得することなんて、なにひとつない。
奏を事故に遭わせ、怪我を負わせてしまったのだって、結局は俺のせいだ。
俺みたいなヤツなんかが…
はじめから奏に関わっちゃいけなかったんだ……

