マサキ君が出ていった扉を前田さんは見つめながら。


「マサキ君……、随分明るくなったわ。これも奏ちゃんのお陰かな?」


私のお陰?


「前田さん、そんな事無いです。マサキ君はある出会いがきっかけで、立ち直る事が出来たんですよ」

「ある出会い?」


私は洋介さんとマサキ君の経緯を、かいつまんで前田さんに説明した。


「……それは素敵な出会いだったね」

「はい。マサキ君は元は素直ないい子なんです。それにマサキ君が明るくなってるとしたら、それはまりあちゃんのお陰かも…」


スヤスヤと寝息をたてるまりあちゃんに、前田さんとふたり視線を移した。


「マサキ君は自分でも誰かに何かをしてあげらるって事が自信に繋がったみたいね。誰かに頼るばかりじゃなく、自分でも誰かに必要とされてるんだって事に気付いてくれてよかった…」


誰かに必要とされる。


それはマサキ君に限らず、私もまりあちゃんも、誰だって何らかの形で誰かに必要とされたり、必要としたりしてる筈。


そうやってお互いに支え合っているからこそ、今があるんだと思う。


「そうですね…」

「さ。奏ちゃん、検査に行こうか?」

「はい。でも、ひとりで行けますから、大丈夫です」


検査室の病棟はわかってるし、忙しい前田さんの手を煩わせる必要もないから、私はそう言ってひとりで病室を出た。


病棟を繋ぐ渡り廊下の窓から見える風景は緑が沢山あって、敷地面積の広さが伺える。


立ち止まって窓の外を見れば、夏の日差しを受けて、噴水から吹き出すキラキラとした水しぶきにはしゃぐ子供達の姿。


その光景はそこが病院の敷地内だとはとても思えなかった。


「奏ちゃん!」


外を眺めていた私を呼ぶ声がして、見てみると。


「洋介さん」


と、もうひとり、洋介さんの横に立つおばあさんが、私に向かって笑顔で手を振っていた。