昼食を食べ終わると、マサキ君が勉強道具を持って、再び病室まで来てくれた。


「マサキ君、私達がマサキ君の病室に行こうか?来るの大変でしょ?」


マサキ君は下半身マヒの為に、ベッドから車椅子に移動するだけでも大変なのに、毎回自分の方から来てくれる。


洋介さんとの特訓で、ひとりでもそれは出来るようになったんだけど、汗だくになり、必死に両腕だけで車椅子に移動するマサキ君の大変さを私は見て知っている。


そんなマサキ君に毎回こちらの方に出向いて貰うのは、気が引けてしまって、私はマサキに君にそう言った。


「え?いいよ別に、随分慣れたし、コツも掴んだし、もうそんなに大変じゃ無くなった。それに俺の病室ヤローばっかだし、奏さんが来ると他のヤロー共がうるさいから…落ち着いて勉強出来ない…」


確かに先日マサキ君の病室に行ったら、若い患者さんばっかりで、忙しなく私に話し掛けてくるものだから、マサキ君にあまり勉強を教えてあげる事が出来なかった。


「飢えた野獣だから、あの人達……、だから、奏さんは俺の病室に来ない方がいいよ…」


飢えた野獣……?


「うえたやじゅうって何?マサキくん」

「子供は知らなくていいの」

「……自分だって子供のクセに…」

「まりあよりかは大人」

「マサキくんはおとなじゃないもん!」

「14歳は8歳より大人だ。ほら勉強始めるぞ?夏の友、出せ、まりあが解んないとこは俺が教えてやる」

「えー?かなでおねぇちゃんに教わるー」

「あのな?まりあ。奏さんも自分の勉強があるの、俺が奏さんに教わって、まりあは俺が教える。その方が効率がいいだろ?」

「こーりつって何?」

「あーもう、ガキは何で何でってうるせーなー。効率ってのは、そうした方がやりやすいって事。奏さんも一度にふたり教えるより、ひとりに教えた方が楽だろ?」

「かなでおねぇちゃん、ふたり教えるのは大変ってこと?」

「そう。だからまりあは解んないとこは俺に聞け」

「うん!わかった!」


言い方はぶっきらぼうだけど、まりあちゃんに何でもきちんと説明してあげるマサキ君は、ホントにまりあちゃんのいいお兄ちゃん。