佐野君とはあの雷の夜以来会っていない。


どうしたんだろかと心配だけど、連絡しようにも佐野君の携帯番号もアドレスもわからないし、入院中の私は外に出る訳にもいかない、出た所で佐野君の住所も知らない。


ピアスも返したいし、まりあちゃんも佐野君に会いたがってる。


今日は来るかなと毎日期待して待ってるんだけど、佐野君は来ないままで、私の心配はますます募るばかりだった。


どうしちゃったの?佐野君……
なんで来なくなったの?


私が毎日来なくていいって言ったから?


だとしたら私は自分の言った言葉を取り消したい。


でもそんな事は出来ない訳で、今度佐野君が来てくれたら、来てくれて嬉しいって素直に言うつもりだったのに、佐野君が来ない事にはそれすらも出来ない。


日に日にそんな思いは強くなる一方だった。


まりあちゃんが会いたがってるって言うのは建て前で、ホントは佐野君に会いたがってる自分が居る。


「まりあが退院するまでには、来てくれるかな?」


そう。
まりあちゃんの足はまだギプスで固定されてるけど、退院して、後は通院でいいと担当の医師に診断され、三日後には退院してしまう。


「それまでには、お兄ちゃんもきっと来てくれるよ」

「うん!そうだね!」


確信の無い事を言ってしまって心苦しいけど、その言葉は自分に言い聞かせる為のものでもあった。


佐野君に、会いたいな……


会ってもっと沢山話をして、もしかしたら、少しでも記憶を取り戻すきっかけになるかも知れない。


時々お見舞いに来てくれる美樹ちゃんに聞いみてもいいのかも知れないけど、それはあくまで美樹ちゃんの主観でしかない。


実際私が何を思い、行動していたかは私自身にかわからないし、私はあえて美樹ちゃんにそれを聞こうとはしなかった。


小谷先生と約束した催眠療法は、ホントはあの晩直ぐにでも試して欲しかったんだけど、もう少し怪我の経過を見てからしか駄目だと、岡崎先生にきつく言われている。


もしかしたら記憶を取り戻せるかも知れないのに、それすらも出来ず、佐野君にも会えずに、私はただ、日々が経過するのを待つしか無かった。