「ははっ。わり…」
暫く背中を見せていたヨースケは、そう言って再び俺に向き直った。
「お前はお前であって、俺は俺だもんな、お前に俺のフィールドは任せらんないように、俺だってお前にはなれない」
ヨースケは真っ直ぐに俺を見て。
「でも…、俺達に共通してる事がひとつある」
ヨースケは腕を下に伸ばし、車椅子を走らせた。
「今は遊ぼうぜ!佐野!バスケで!」
ヨースケと俺の共通点。
それはやっぱりバスケしかなくて……
俺は立ち上がり、ドリブルで走り出す。
木陰から一転、降り注ぐ陽射しを全身に浴びながらヨースケに向かって走る。
動かずそこで構えるヨースケを腰を落としてすり抜ける。
ゴールに向かって一直線。
−−ガーーッ!
音がしたかと思うと、ヨースケが俺の横をすり抜けた。
かと思ったら、ボールをヨースケから拐われていた。
速い。
車椅子ってあんなに速いのか?
なんて思っている内にヨースケは既にゴール下。
ふわりとボールを上げるとそれはリングに吸い込まれた。
それは腕の動きから、指先まで、シュートの基本のような綺麗なシュート。
俺みたいな力任せなシュートとは違う。
初めてヨースケに出会ったあの決勝戦。
怖いもの知らずで舞い上がっていた当時の俺が、初めて憧れ、それに少しでも近付きたいと思ったしなやかな動き。
洋ちゃん。
今でもあの頃とちっとも変わってないよ。
俺なんか足元にも及ばない。
ずっと尊厳してる。
これからもヨースケは俺の憧れ。
「……ははっ、やっぱ、洋ちゃんには叶わないや…」
「当たり前だ。まだお前には負けねーよ」
そう言って笑うヨースケは、夏の太陽みたいに眩しくて、思わず目を細める。
「あっ!ヤベー!もうあんま時間無いじゃん!」
フェンスに設置されたアナログ時計に目をやると、時刻は午後3時少し前。
「あと30分しかないじゃん…、佐野、俺がゴール下に走り込むから、ボールパスしてくれよ」
「うん。何の特訓?」
「アリウープ」
アリウープ。
ゴール下でキャッチしたボールを、掴んでそのままシュートする難易度の高いプレー。
「選抜合宿までには何とか形にしたいんだよ、時間がいくらあっても足りない。頼む、佐野」
「うん」
そんな事位しか今の俺には出来ないけど、それでもヨースケの力になれるんなら……
何時間でも、何日でも付き合うよ。
洋ちゃん。

