コートの中の照り返す地面で話すには暑すぎて、俺達は隅に設置されたベンチが置かれている木陰まで移動した。


フェンス越しに風は吹くけど、風と言うより熱風で、とても心地良い風とは言えない。


「……そうか、大体わかった…」


話終えると、それまで黙って聞いていたヨースケが初めて口を開いた。


「まず一言」

「うん?」

「お前バカだろ?」

「は……?」


いきなりバカ呼ばわりされてしまった俺。


「アメリカだろ?本場だろ?NBAだろ?チアガールだろ?」

「洋ちゃん、明らかに仲間外れがある」


そんな俺のツッコミをヨースケはスルーして。


「何で行かない?」


至って真剣な表情で俺にそう聞いてきた。


「……何でって。色々と…、事情があるんだよ」


そんなヨースケの視線から目をそらしてそう呟くと。


「事情ってなんだよ?」


さらに食い下がってきた。


うやむやな誤魔化しが利かないヨースケ。


「……怪我の事とか、費用の事…、他にも色々…」

「色々って?」


引き下がらないヨースケに俺は、諦めて正直に話す事にした。


「………奏と、離れたくないんだよ…」

「奏ちゃんと?」

「うん……」


両手をついて、車椅子から乗り出しそうな勢いだったヨースケは、腕の力を緩めたのか、車椅子に腰を沈めた。


「……でも、一生会えなくなるって訳でもないだろ?確かにアメリカは遠いし…、奏ちゃん可愛いし…、離れたくない気持ちはわからんでもないけど…」


恐らく、アメリカに行ったら…


もう……、会えなくなる。


何年かかるかわからないし、行ったとしても、成功するとは限らない。


何より今の奏を置いてアメリカに行くなんて、考えただけでも嫌だ。


奏を必ず幸せにしてやりたいから、俺は確実な未来を歩ける方法を選んだ。


見えない不確かな未来を選ぶ訳にはいかない。


「俺……、将来は教師になるって決めたんだ」

「教師?」

「バスケは今でも大好きだ」

「だったら…」

「うん。洋ちゃんの言いたい事わかるよ。何らかの形でバスケには携わっていたいとは思ってる。でも、俺はそこまでで十分なんだよ……」


…そう。
それだけで十分だ。