「ハアハア……」
ドクドクと脈打つ鼓動が身体中を駆け巡り。
両手を膝に、肩で息をすると、額から流れた汗が地面にシミを作る。
真夏の熱気がそれをすぐに蒸発させた。
さっきまでの光景は跡形もなく、そこには俺とヨースケしか居なくて、真夏の暑さが俺に幻覚を見せたかのようだった。
「お前…、なに全力でやってんの?思わず見とれただろが」
落ちて転がっていたボールを拾うと、苦笑いでヨースケは俺の横までやって来た。
「ハアハア…、惚れた?」
「……ちょっとだけ」
「ハア…はは…、ちょっとか…ハア…、残念」
「ははは。エア相手になんかしてないで、俺の相手もしてくれ…、よっ」
ヨースケはその場でボールを高く放ち、上がるボールを見上げれば眩しい太陽と重なった。
上がったボールはゆっくりと降下し、そのままリングに吸い込まれた。
「ある日突然、何が起こるかわからない……、だから俺は今できる精一杯の事を自分なりに全力でやりたいと思う」
ヨースケは落ちて跳ねるボールを片手でキャッチして。
「でも、自分一人の力じゃここまで来れなかった、お前や、アキラやチームメイト。、医師、理学療法士の先生や技師装具士の先生。ばあちゃんや両親や貴司…」
左足を見下ろすヨースケ。
「そうやって、俺の力になってくれた人達が居るからこそ、今の俺があるんだ」
確かにそれもあるだろうけど、何よりも、ヨースケの強い心と、努力があってこその今だと思う。
逃げ出した俺なんかが、そんな事言える資格なんかないけど、ヨースケの周りの人達もそう思っているに違いない。
「お前はどうなんだ?」
「……え?」
「お前にも背中を押してくれる人が居るんだろ?奏ちゃんが事故に遭う前にそんな事言ってたから」
奏が記憶を失う前?

