一時間程アキラの部屋で過ごしてから、俺達はアキラの家を後にした。


帰り際アキラはヨースケに。


「頑張れよ、洋介」

「お前も頑張れよ」

「うん。洋介が金メダル取る瞬間までは生きとくよ」

「………そんな事言うと、一生メダル取らねーぞ?」

「ははは。冗談だよ。いい結果期待してる」

「おう。任しとけ」


アキラは終始明るく俺達を見送った。


家を出てパーキングに向かって歩いていると、後ろからアキラの母親がヨースケを呼び止める声がして。


「洋介君。代表選抜合宿頑張ってね」

「うん。ありがと、おばさん、やれるだけやってみるよ」

「………この所、調子が悪くて、少し自虐的になってから、あの子……、でも、洋介君のお陰で、まだ頑張れそうよ。だから、こちらこそありがとう…」

「アキラ…、そんなに悪いの?」

「良くはないわ。でも…、本人の強い意志が大事だって、先日医師にも言われたの。だから、今日の洋介君の報告、アキラにとっても凄く励みになったわ…、生きる希望を少しでも持てた筈だから……」

「おばさん……」

「あっ…、あははっ、私が泣いたりしちゃ駄目ね!しっかりしなくちゃ!」


泣き笑いでおばさんは自分の頬をピシャリと両手で叩いた。


「ごめんね。引き止めて。イケメン君もまたいらしてね?」

「はい。俺、佐野ですけど」

「じゃ、おばさん。また来るよ」

「うん!じゃあね!」


おばさんは踵を返すと俺達に手を振って来た道を戻っていく。


その背中を見送って俺達はまた歩き出した。


「アキラの身体…少し前に会った時より、また痩せてた」


洋介ゆっくりと歩きながら、独り言でも言うようにぽつりとそう呟く。


「背中が骨でゴツゴツしてた」

「…………」

「徐々に動かなくなってくる身体を抱えてたアキラ…、脊椎損傷で下半身付随になった奴、ウイルスに感染して麻痺が残った奴、骨肉腫で足を切り落として、なおかつ、転移に怯えながら暮らしてる奴……」

「…………」

「俺の周りにはこんな奴ばかりだ……、それに比べたら…、こんな言い方しちゃいけないんだろうけど、俺なんか、まだ恵まれてる」


片足が無くなっているのに、自分は恵まれてると言うヨースケ。


普通に歩ける事も。
今生きている事も。


今まで考えてもみなかったけど、その当たり前の日常は、実はどれだけ幸せな事なんだろうか。